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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)65号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

二 審決を取り消すべき事由の有無についての判断

1 前記認定の本願発明の要旨に、成立に争いのない甲第二号証(本出願に係る特許公報掲載の図面)及び第三号証(昭和六二年三月三一日付手続補正書)を総合すると、本願発明は、ハニカム状成形坏土素地の押出成形用口金の再生法に関する発明であるところ、押出成形用口金の全面に設けられた多数のスリツトが押し出される坏土による研摩作用によつて摩耗し各孔相互間の隔壁の厚さが所定の寸法幅外になつたときには、従来これを徒に廃棄しており、またハニカム状成形坏土素地の外形は需要に応じた形状にする必要があり、そのために、押出成形用口金の前面に所望の断面形状の相応する開口を設けた抑え板を取り付けることになるが、抑え板を取り付けた周方のスリツトの部分には坏土の押出しがないので摩耗することがないが、抑え板を最初に使用した抑え板の開口と異なるものに取り換えて使用する場合には、得られた成形坏土素地のハニカム状の各孔相互間の隔壁の厚さが周方のものにおいて他のものと不均一となるので、スリツトの摩耗が僅かであつても、抑え板だけを変えることのみによつては断面形状の異なる成形坏土素地を適正に成形することができず、この場合にも口金の再生ができなかつたので、徒にこれを廃棄するという無駄をしていたこと(従来におけるこのような口金廃棄の無駄をなくそうということは、ハニカム状成形坏土素地の押出成形用口金を使用する当業者にとつて、改善すべき技術課題であつたことは本願明細書における従来技術の開示の仕方やその技術事項に照らして明らかである。)、そこで、本願発明は、前記のごとき従来行われていたハニカム状成形坏土素地の押出成形用口金の使用に係る大きな無駄をなくそうという技術課題ないしは目的を達成するために、特許請求の範囲に記載したとおり基本的な構成として「スリツトに残存する無電解メツキ層を化学的に溶解除去し、次いで口金母材のスリツト全体を再度無電解メツキしてその無電解メツキ層をもつてスリツトを所定寸法幅のものに復元させ」るという再生法を採用したものである。なお、原告は、右に引用した特許請求の範囲における「スリツト全体を再度無電解メツキして……所定寸法幅のものに復元させる」との記載に関して、本願発明は、残存する無電解メツキ層を除去したのち、再度無電解メツキすることにより口金のスリツト幅を文字通り「復元」するばかりでなく、スリツト幅を調整もしくは修理し得る技術である旨主張し、被告は、このような理解を争い、「元の状態に再生」する方法であるにすぎない旨反論するところ、本願発明の技術的範囲の解釈としては問題なしとしないが、この点の解釈の違いは、のちに詳述するごとく引用例に開示された技術的事項を適用することに際して、適宜選択実施できる程度の相違と認められるから、本願発明の進歩性についての判断を左右するものではない。

2 引用例(本出願前に頒布された審決摘示のとおりの刊行物であることについては、原告の明らかに争わないところである。)に審決認定のとおり「金型(特に複雑な形状の金型)に化学ニツケルめつき層(無電解メツキ層)を設けること、この無電解メツキ層が摩耗した場合、この金型を廃棄せず再度無電解メツキを施して金型を再生する」技術が記載されていることは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証(引用例)によれば、引用例には、「化学ニツケルめつきによる金型の表面処理方法が開発実用化され、従来の数倍または数一〇倍の耐摩耗性を有する、きわめてコストが安く、長期間にわたつて安心して使用できるユニークな方法で摩耗問題の解決が図られており、米国では化学めつきを施すことはもはや常識になつたといつても決して過言ではない。」(二九頁1)、「表面の大きさや形状にまつたく関係なく、目的とする品物に、均一で、しかも自由な膜厚が得られる。この均一性と自由に得られる膜厚が、金型にとつてはとくに必要なことで、複雑な型状をしている金型には非常に適しているばかりでなく、その型状、使用ひん度に応じて、めつきの膜厚を変えて長期間型の寸法精度を維持させることができるわけである。」(二九頁2)、「(2)いかなる複雑な形状であつても均一にめつきができ」(三〇頁)「(5)型摩耗が少ないため型のメンテナンス費用が大幅に節約できる。(6)金型素地を痛めないように、うまく管理すれば何回でも再めつきできるためトータルの型費にしめるコストが大幅に節約できる。」(三〇頁)及び「いわゆるめつきがいかにもつとはいつても、必ず摩耗する。したがつて何回もめつきが可能でなくてはならない。」(三三頁)などの記載のあることが認められる。これらの記載内容からみても、引用例には、金型に無電解メツキ層を設けること、該メツキ層により金型の耐摩耗性を改善すること、該メツキ層が摩耗した場合に再度メツキ層を施して再生すること(目的に応じて、均一で、しかも自由な膜厚が得られるので、膜厚の調整もできること)、及び該メツキ層はいかなる複雑な形状の金型にも設けることが可能であること、が開示されている。したがつて、本願発明と引用例記載の技術的事項とは、金型表面に無電解メツキ層を設け金型の耐摩耗性の改善を図ること、及び該メツキ層が摩耗した場合に再メツキする点で軌を一にするものであつて、しかも引用例には、前記のとおり該メツキ層はいかなる複雑な形状の金型に対しても設けることが可能であることが開示されているのであるから、ハニカム状成形坏土素地の押出成形用口金の使用に当たつて、前記説示のごとき技術的課題を抱えていた当業者としては、引用例にいう「複雑な形状の金型」に相当するハニカム状成形坏土素地の押出成形用口金について、その摩耗性の改善のために引用例に記載された右の技術手段を適用して口金に無電解メツキを施すこと(相違点(1))、及びこれによつて(相違点(2)について述べるような古いメツキ層の除去工程をおいて)口金の復元(元の状態に再生すること)もしくは調整(所望のスリツト幅に形成すること)を図ることは当業者が必要に応じて容易に行い得ることであるというべきである。また、一般に再度メツキをする場合には、前処理工程として古いメツキ層を除去する工程がある(原告もこの点は争わない。)から、再度無電解メツキをするに当たつて、抑え板により閉じられていた部分を含むスリツトに残存する無電解メツキ層を化学的に溶解除去すること(相違点(2))も、当業者が適宜実施できる事柄であり、かつ口金に再度メツキを施すに当たり、摩耗した無電解メツキ層のみを除去し、この部分のみを元のメツキの厚さに復元するか、あるいは口金の全体にわたつて古いメツキ層を除去し、全体に再度無電解メツキを施すかは、当業者が口金のスリツトの摩耗の状態や具体的な口金の使用目的ないし使用態様等に応じて適宜選択実施できる程度のことというべきである。したがつて、審決における本願発明と引用例に記載された技術的事項との相違点(1)、(2)についての判断には、原告指摘のような誤りはなく、原告がその取消事由として主張するところは、いずれも理由がないものというべきである。

右のとおり、本願発明は引用例に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとした審決の結論は正当であり、何ら違法の点はない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものとし、これを棄却することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

表面に形成された無電解メツキ層をもつてスリツトを所定寸法幅としている口金母材の前面に所要の開口を持つ抑え板を取付けた押出成形用口金が、そのスリツトの無電解メツキ層を押出される坏土の研摩作用により摩耗されて所定寸法幅外の寸法幅のスリツトとなつたとき、抑え板を分離したうえ抑え板により閉じられていた部分を含むスリツトに残存する無電解メツキ層を化学的に溶解除去し、次いで口金母材のスリツト全体を再度無電解メツキしてその無電解メツキ層をもつてスリツトを所定寸法幅のものに復元させたうえその前面に再度抑え板を取付けることを特徴とするハニカム状成形坏土素地の押出成形用口金の再生法。

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